「日本人」という、うそ ─武士道精神は日本を復活させるか 山岸俊男 ちくま文庫 2015年
組織による隠蔽や不祥事が生じるたびに言われるのが、「モラルの崩壊」といった言葉である。そして、モラルの復活には、かつての古き良き日本が持っていた心を取り戻すべきであるといった議論が往々にして行われている。現在の教育改革の動向においても、識者の発言にしても、武士道に由来する精神を涵養すべきとする意見は根強い。しかし、それは正しい方策と言えるのだろうか。そのような疑問を原点に、社会心理学の観点から日本が現在抱える問題の所在を明らかにし、将来日本が選択すべき道について考えるのが本書のテーマである。筆者は、心の持ちようを変えるべきだという議論を「精神論」として切り捨て、実証的な研究に基づいた、人間の心の性質に合った方策の必要性を訴える。
日本人は集団主義的で、欧米人は個人主義的であるという、誰もが疑うことのなさそうな前提をも覆す筆者の主張、それを裏付ける実験の数々は非常に興味深い。後半では、日本の思想の原点にある統治者の倫理と、西洋の思想の原点である商人の倫理についても触れている。これら2つの思想が入り乱れて「いいとこどり」される危険についても論じており、単なる社会心理学の枠を超えた日本社会論になっている。
本書のもととなる書籍が発売されたのは実に7年前のことであるが、現状がそれより良くなったとは言い難く、相変わらず精神論で何とか日本を支えようという思考は変わっていないと思う。このような社会状況の中、本書の存在意義は大きい。
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