やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑩ 渡航 小学館ガガガ文庫 2014年
生徒会主催のクリスマスイベントも終わり、それを機に関係に変化が生じた奉仕部の面々だった。年末は大きな事件もなく過ごしたところでの年明け、学校中では新たな噂が広まっていた。葉山隼人と雪ノ下雪乃が付き合っているという噂だ。それをきっかけに、クラス内の雰囲気がピリピリする中、奉仕部に依頼が舞い込んでくる。依頼主は女子のスクールカーストのトップに君臨する三浦であった。同じクラスの葉山の進路が知りたいという内容であったが、その真意とは…
いよいよ物語も終盤に向かうと宣言されている本作だが、作者によると10巻がちょうど終わりの始まりと言える位置づけであるという。今回の内容は、葉山や三浦といったトップカーストに位置する人間の願いや気持ちに迫るといったところ。葉山といえば、表向きの印象はイケメンにして頭脳明晰、それでいて周りへの気配りもできる学校中の人気者である超人で、八幡とはまるで真逆の世界に住む人物であるが、その柔和な笑顔の裏には、彼なりの悩みも抱えている。周囲の期待に応えることが自らの使命と考え、行動する葉山が最も嫌い、それでも意識せざるを得ない存在が八幡なのだということが伝わる内容だった。また、八幡と葉山は完全な二項対立で語れるほど真逆の存在ではない。似ているが別の世界に暮らし、周囲から期待される行動が真逆であるがゆえ、絶対に仲良くなれない。そんな運命に晒された2人なのである。
9巻の事件を通して、「本物」を得たいと願い、「偽り」の関係に終止符を打とうとしたのが、八幡、雪ノ下、由比ヶ浜の奉仕部面々だった。それに対して、関係を続けることに意味があると考えるのが、葉山や三浦の選択であるようだ。最後に雪ノ下陽乃が問いかけるように、果たして「本物」とは何であろうか。そのような疑問を抱えつつも、本書の第9章のタイトルが語るように、過去の関係の蓄積と未来への望みをつなぐ線の間にある現在を、人はそれぞれ選択しながら生きていくのだ。
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