「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー 高橋秀実 新潮文庫 2014年
今年の4月から放映されていたドラマの原作。東大合格者数では有名な開成高校も、野球部に至っては悲惨な状況だ。まともにキャッチボールができないやら、守備をやらせてもエラーを連発するわで、とても試合で勝てそうなチームではない。ところが、2005年夏の大会では、東東京ベスト16進出という大躍進を遂げた。本書は、そんな開成高校野球部の取り組みについて、選手や監督への取材を通してまとめたものである。
ドラマ化し、そこから知った作品ではあったが、非常に興味深い記述に溢れた内容で、一気に読んだ。強豪校の常識が通用しない開成高校において、大切なのは「ドサクサに紛れて勝つ」ことだそうだ。高校野球における様々な戦術は、結局は強豪校同士の逼迫した試合を前提としたもので、ごく普通の学校、はたまた普通以下の実力の学校ではまったく意味を為さない。これが、開成高校野球部監督、青木先生の考えである。エラーを前提として、取られた分以上に取り返す攻撃野球、練習を仮説と検証の場とする練習法など、開成高校の実情に合った戦略の数々は、不思議と説得力に満ち溢れている。また、ドラマについても、本書の内容を最大限に活かして制作されていたのだなとわかり、本書の素晴らしさを伝えてくれたドラマのスタッフにも感謝したくなった。
終わりにある桑田真澄による解説もまた、素晴らしい。野球以外のあらゆるものを絶ち、練習時間が長ければよいと考える風潮や、体罰はあって当たり前という高校野球の姿勢に疑問を持ちながらも、プロの世界まで駆け上がった彼ならではの開成高校野球部への愛情に満ちた言葉は、心に響く。
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