甦る教室―学級崩壊立て直し請負人― 菊池省三・吉崎エイジーニョ 新潮文庫 2015年
福岡県北九州市。そこは、並大抵の教員ではとても務まらないくらいに教育が難しい地域であるという。その地の小学校で21年間戦い続け、数々の学級崩壊クラスを立て直し、メディアに登場するまでにもなった菊池先生の教育実践や教育思想をまとめたのが本書である。他人を顧みない自分勝手な行動、他人に対する無知から生じるいじめや問題行動など、様々な課題を解決するために菊池先生が編み出したのが、言葉を大切にした教育であった。生徒一人一人が皆から良いところを見つけて褒められる経験をする「褒め言葉のシャワー」や、自分なりの課題や成長記録を収めたノートの作成など、言葉の力を信じて取り組んだ実践と、それによって心を変化させていく生徒達の姿が紹介されていくにつれ、教育の力が持つ可能性が感じられる。
菊池先生自身は、褒めることを大切にした教育の実践者ではあるが、共著の吉崎氏が語るところによると、とんでもなく厳しい面を持ち併せた教師でもある。特に、価値観の変化が猛スピードで進み、うっかりするとすべての価値が相対化され、何が良くて何が悪いのかの基準を見失いそうな世の中だからこそ、「ダメなものはダメ」と言い切ることの大切さを訴える強さには脱帽だ。それでいて、殊のほか若い頃は子どもに交じって無邪気に遊べる人でもあったようだ。まさに菊池先生本人が述べている、教育において1人の人間が父性・母性・子どもらしさの3つを持つことの大切さを見事に体現しているのである。
ご自分のお子さんの子育てでは苦労したことも多かったらしく、子育てエピソードにおいては、また別の菊池先生像が垣間見えるのが面白い。教育関係者だけでなく、子育てに携わる人にもお勧めできる本である。
PR