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# 『ネイティヴが教える英語作文の技術』
2010/03/16 13:11
ネイティヴが教える英語作文の技術 ウェイン・スティアー 江口真理子 丸善ライブラリー 1998年



英語の文章を上手に書くにはどうしたら良いのか。本書は、わかりやすく、しかも名文と思わせる英文を書くためのコツを伝授しようとするものである。

タイトルに「英語作文」という表現が含まれているものの、本書の内容は、十分母語にも適用可能なものである。むしろ、日本語の作文教育ではあまり教えられていない内容かもしれない。例えば、風景を描写するときには視点を一定にし、一点から順々に場所を移動するように書くという技術は、言われてみれば当たり前でも、誰かに教わったかというと、定かではない。

その他、やや高度な技術についても取り上げられている。相手を説得する文を書く際のコツなどは、なるほどと思わされる。まず、自分の意見に対する反対意見と賛成意見を交互に出すことがポイント。さらに、反対意見は、説得力のあるものほど前に、賛成意見は説得力のあるものを後に、それぞれ提示すると効果的であるという。なぜなら、読み手にとって、文章の最後は印象が最も強い。その部分に強力な主張が来れば、読者は納得させられやすい。しかも、全体としては反対意見にも耳を傾けているのだから、主張を押し通した独善的な文章には見えない。最後に、自分の賛成意見のみをまとめた要約文で文章を示せば、無意識のうちに、読み手は説得されてしまう。

また、終盤に出てくる、作文ミスのチェック表は、非常にユーモアのある構成。例えば22番、
Needless to say, avoid, you know, useless words (p. 181).
※「不要な言葉は省け」というメッセージを伝えるために、筆者が不要だと指摘する"needless to say"(「言うまでもなく」)や、"you know"(「ほら」「知っての通り」)をわざと含んでいる。

英作文向けなので、もちろん文法についての話もある。しかし、大半は書くための姿勢や、ちょっとした小技の紹介に費やされている。論理的でわかりやすい文章を書く方法が紹介されている本は少なくないが、本書のように、その先にある「名文を書く」という段階まで見据えている本は意外と少ない。もちろん、テクニックを使いすぎて逆に仰々しい文になってしまったり、わかりやすさを犠牲にしてしまっては、本末転倒と言える。それでも、知っておくと便利な知識は多い。
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# 『リスク・リテラシーが身につく統計的思考法 初歩からベイズ推定まで』
2010/03/07 14:43
リスク・リテラシーが身につく統計的思考法 初歩からベイズ推定まで ゲルト・ギーゲレンツァー 吉田利子 ハヤカワ文庫 2010年



現代の世の中は、不確実なことばかり。「これをすることによるメリットとデメリットは何か」などと、リスクについて考えるべきことは多い。しかし、そのためのツールが果たしてどのくらい普及していると言えるのだろうか。本書は、豊富な事例を基に、確率的な思考法に慣れて、各人がリスクについて正しく判断できるようになることを目指したものである。

原書の副題は、How to Know When Numbers Deceive Youということで、確率的な思考法が、現代社会を生き抜く上での必須条件だと考えるのが筆者の立場。それもそのはず。本書で扱われる例は、乳癌の検診で陽性と診断されたとき実際に癌に罹っている確率、法廷で証拠として提出されたDNA鑑定が容疑者のDNAと一致したとき容疑者が犯人である確率など、まさに生きることと密接に関わった内容ばかり。高校で学習する、サイコロが、コインが、くじ引きが、などといった、実生活との結びつきの弱く、切迫性のない事項ではない。その他にも、例えば、ある治療法の効果を説明する際、「○%の減少」という説明を見たときの注意など、確率のみに限らず、数字に利用されたり踊らされたりしないように気を付けるための考え方も、しっかりと説明されている。そして、反対に人に説明するときにはどのような方法を使うべきかという注意点についても丁寧に述べられている。数字を足したり掛け合わせたりといった、ややこしい手続きを経なくとも、理解しやすい方法は存在するのだ。詳しくは省略するが、それは、具体的に1000人なり10万人の集団を想定し、具体的な人数で考える方法。この方法を用いると、アメリカ、ドイツの大学生の半分以上が、正答率9割を超えたという。

本書の随所に見られるのは、リスクを正しく説明しない(説明できない)医療従事者や、法廷の検察や弁護士、巧みに数字を利用して利益を上げようとする企業への批判である。このような指摘を見ていると、確率という分野は、数学の中で最も社会との関わりが強い分野なのではないかと思えてくる。確率を勉強することの意味は、この1冊を読むことで明らかになると言っても過言ではない。

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# 『太郎が恋をする頃までには…』
2010/02/28 21:30
太郎が恋をする頃までには… 栗原美和子 幻冬舎文庫 2010年



持ち前の負けん気を武器に、アナウンサー採用でもないのにキャスターの地位まで登りつめ、仕事に恋に充実した日々を過ごし、40歳を向かえた五十嵐今日子。世間からは絶対に結婚しない女とまで言われるに至っていた彼女が、突如結婚を宣言することになる。その相手は被差別部落の出身者であった。今日子はそんなことは一切気にしないという立場を貫き、結婚を決めた。しかし、家族や世間の壁にぶつかり、2人は悩む。そこで2人が辿り着いた結論とは…
タブーと言われる世界を鮮やかに、そして哀しく描写した意欲作。

表向きには華やかな印象を持たれながらも、これまで心の奥底に寂しさを抱えながら生きてきた女性が、心に烈しさを持った男性に惹かれる。そして、結婚に至る。初めの部分はそのような恋愛小説に過ぎない。しかし、今日子の結婚後、事態は変化し、部落出身者の差別という現実が重みを増して主人公達にのしかかってくる展開となる。差別を受けた者の苦しみ、新郎新婦それぞれの家族の問題、その親戚の問題、その背後にある現代日本社会の問題。壁は次々と現れ、容易には突破できない。
どんなに相手のことを想っていても、相手を傷つけることになってしまうこともある。しかも、その要因は、家族、親戚、そして社会へとつながる構造の中で形成されたもので、とても2人だけで乗り越えられる問題ではない。根底にあるのは、本文中でも何回か出てくる、「理屈では説明できない人間の感情」である。だからこそ、問題の根は深い。

本書は、もちろん、それ以外の要素も詰まっている。仕事に恋に、一流であり続けている女性の結婚に関する問題、働く女性と出産の問題、主人公が最後まで克服できなかったエレクトラ・コンプレックスなど。しかし、主眼となるのは、やはり日本社会に根強く生き残る差別の実態であろう。ネタバレになってしまうので、詳しくは書かないが、作者のあとがきでは、それがひしひしと伝わる。

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# 『英語リーディングの科学 「読めたつもり」の謎を解く』
2010/02/19 20:28
英語リーディングの科学 「読めたつもり」の謎を解く 卯城祐司編著 研究社 2009年



本書は、簡単そうに見えて意外と難しいことである、「『読める』とはどんな状態か」ということについて、英語リーディングを材料に、様々な視点から問題提起をしていく。

文章読解について、何となく誰もが、単語を知らなければいけない、背景知識が必要だ、図があった方がわかりやすいだろう、などといったことは考えるであろう。そして、それは事実である。しかし、本書はそのような常識について、もう一歩深く踏み込んだ視点から検討する。例えば、「単語を知っている」とは、どんな条件が揃っていることを指すのか。単語1つについて1つの意味だけを知っていれば十分というわけではないし、かといって、単語学習は限りがない世界でもある。また、背景知識といっても、どんな知識が読解に有効なのか。本書は、これらの質問に対する答えを複数提示していく。それらの例から、読解に対して複眼的な見方ができるようになる。

本書の優れている点は、常識・理論・実践の3点の接点を模索しようという気概に溢れているところにあろう。個々の経験の中で何となく実感として持っているものが、理論と照らし合わせるとどんな意味を持つのだろうかと考える機会になる。反対に、理論が持つ意味について考えることもできる。また、本書は非常にバランスの取れた立場から物事を語っている点でも優れている。文法訳読型のみで進める授業を批判する一方、「コミュニケーション重視」を徒に謳った指導法に対しては懐疑の目を向ける。本書から伝わってくるのは、それぞれの指導法の長所短所を見極め、適切に用いることが何より大切というメッセージだ。

教える側の参考になる部分が多いものの、学習者としての立場で読んでも面白い。読解力(英語のみならず、日本語も)を身に付けるための障壁を理解しつつ、学習を工夫していく方法を、各自が考えることで、自習の効率も上がるであろう。

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# 『4-2-3-1 サッカーを戦術から理解する』
2010/02/13 12:23
4-2-3-1 サッカーを戦術から理解する 杉山茂樹 光文社新書 2008年



1993年のJリーグ発足以来、常に人気スポーツであり続けてきたサッカー。日本代表の試合ともなれば、多くのサポーターが集まる。スター選手の話題が尽きることはない。しかし、その反面、戦術、特にフォーメーションについて語られることは案外少ないのではないだろうか。本書は、サッカーの戦術について、フォーメーションの観点から解説した本。「サッカーは戦術でするのもではない」という意見に対し、年間300試合の取材経験を基に、筆者が疑問を呈する。

日本では、サッカーのフォーメーション(グラウンドにどのように選手を配置するか)については、4-4-2や3-5-2など、3列表記を用いることが多い。少なくとも、新聞などのメディアの書き方は、そのようになっている。これは、単に左からDF, MF, FW登録の選手が何人いるかということを示しているに過ぎない。しかし、実際はそれほど単純なものではなく、ポジションの名前以上に、全体として選手をどこに置き、どのような戦術の下に動かすのかが、大変重要になる。また、ある戦術を実現させるには、それに見合ったフォーメーションで試合を運ばなければならない。見事な戦術が実現した時、ダヴィデがゴリアテを倒すような番狂わせが起こる。一見ただの数字の羅列にしか見られないものの中に、とんでもなく奥が深い世界が詰まっているのである。

本書は、サッカーのフォーメーションについて、歴史的な流れを概観しながら検討していく。そして、素晴らしい戦術ゆえの名勝負の紹介が間に挟まれる。名勝負の裏には、名監督の采配がある。そのような事例を知ることで、フォーメーションというものへの見方が変化する。「攻撃は最大の防御」という表現がなぜサッカーにはぴったりと当てはまるのかも、少しわかったような気がする。

ただし、本書は、相手のフォーメーションの崩し方については、それほど取り上げていない。筆者の言う「古典的な」フォーメーションの弱点や崩し方はよくわかる。しかし、反対に現在流行のフォーメーションにだって、弱点があって然るべきだと思うのだが、それについては触れられていない。個人的には、スポーツにおいては、どんな戦術も長所と短所を持っているのだと思うのだが。

ちなみに、本文の前にある、フォーメーションの紹介図は、非常に参考になる。

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# 『チョムスキー入門』
2010/02/11 23:48
チョムスキー入門 ジョン・C・マーハ ジュディ・グローヴスイラスト 芦村京 明石書店 2004年



人文学の世界では、大変引用されるのがチョムスキー。その数は、聖書やギリシア哲学の偉人には劣るものの、現在存命の者の中では最多であるという。本書は、そのタイトルが示す通り、チョムスキーという人物を紹介する本である。それゆえに、彼の言語理論の裏にある哲学的な思想はもとより、彼の政治的発言の根源となる考えまでが網羅され、チョムスキーという1人の人間像を浮き彫りにする。

どちらかというと、言語理論よりは思想的な背景についてまとめられている。チョムスキーの理論は、言語の生得性を基盤にしたり、理想的な話し手を想定することが、以前の言語理論と異なる点である。本書はその思想を、プラトンやデカルトの思想と関連させたり、ガリレオなど自然科学者の思想と対比させつつ紹介することで、チョムスキーが言語について何を考え、どこに向かおうとしているのか、豊かな情報を提供してくれる。また、様々な批判に対するチョムスキーの解答も簡潔にまとめられていて、チョムスキーの理論の特徴がよくわかる。

そして、本書が他の本と異なっている点は、全体の30~40%位を割いて、チョムスキーの政治的な発言についても扱っているところである。まるで社会からは断絶されたことを研究しているかのように思われがちな言語学者が、なぜ政治に対してあれだけ痛烈な批判をするのか。本書では、そのような問いかけ自体がチョムスキーにとっては不可解なものであると述べられる。なぜなら、田中克彦氏による解説でも述べられているように、「あなたの言っていることは本当か?」と考えることに、専門的な資格などいらないからだ。それこそが、民主主義の世界に生きる者のあるべき姿なのであろう。

類書にはない絵の多さが、本書の魅力。取り上げられている内容は、おそらくは非常に高度なことであろう。それでも、ほぼ毎ページに登場してくる挿絵や漫画のおかげで、理解が助けられる(それとも、わかった気になっているだけなのだろうか…)。

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# 『非識字社会アメリカ』
2010/02/04 09:40
非識字社会アメリカ ジョナサン・コゾル 脇浜義明 明石書店 1997年



国民の約3分の1が、まったく文字が読めなかったり、作業に必要な説明書が読めなかったりする。子どもに本を読んでやれないことに、やりきれない思いを抱く母親がいる。そんな現状にもかかわらず、政府は識字教育には無関心で、そのための予算は減らされていく一方である・・・これは、現在のいわゆる発展途上国の現状ではない。1980年代のアメリカの姿なのである。本書は、高度な文明の象徴であるアメリカ合衆国が抱える深刻な問題に迫る。学校からドロップアウトせざるを得なかった人々や、識字教室を運営する人々の悲痛な叫びから、アメリカ社会の持つべき方向性を問う。

識字問題が、いかに様々な問題を内包しているかが、よく伝わってくる本。識字能力において1つの基準になるのが、「機能的識字」である。これは、単に文字が読めるに留まらず、日常の生活や仕事において最低限必要な識字能力のことを指す。その基準に照らし合わせると、少なくとも1980年の時点においては、アメリカ国民の3分の1が「非識字」に分類されるのだという。本書の前半では、このような人々の苦労や悲しみが豊富な事例に基づいて紹介される。何とか仕事にありつけ、朝はコーヒーを飲みながら朝刊を読むという、何とも優雅な生活を満喫しているように見える男性。実は、この男性は文字が読めないことを隠して生活しているのである。だから、朝刊を読んでいるふりをする必要があるのだ。また、5歳の子どもに、自分が文字を読めないことを知られ、悲しみに胸を打ち砕かれる女性もいる。これらの人々の中には、何らかの理由で学校を辞めなければならなかった者が多く存在する。人種という、アメリカならではの問題もある。

そして、筆者が抱える、当時のアメリカ社会への怒りが最も露わに、そして雄弁に語られるのが、本書の後半である。筆者は、「機能的識字」の概念に疑問を呈する。筆者は、真の識字力とは、与えられた最低限のものをこなすためのものではなく、社会に溢れる悪意に満ちた言説を疑い、批判的精神をもって読解する力であると主張する。だから、仕事に最低限支障が出ない読解力があれば構わないという考え方に対し、懐疑的な姿勢を持つ。識字は、弱いものが支配的な勢力に抵抗する術になり得るのだ。

「機能的識字」を超えた識字を、誰もが身に付けることができる社会とはどうすれば実現するのか。筆者は、狭い区分に囚われた学問界の統合、批判的な思考を養う教育など、いくつか解決策を示す。しかし、実現に向けての努力はまだ始まったばかりである。

ちなみに、近年は別の視点から「機能的識字」の概念に疑問を投げかける動きもある。識字が大切で、社会参加のための必須条件ということを過度に主張することで、ディスレクシアや、視覚障害を持つ人々、在日外国人など、識字にハンデをもつ人々には、社会参加が許されないという暗黙の差別に繋がる可能性があるからだ。そう考えると、識字問題は奥が深い、人間の本質にかかわる問題であることがわかる。

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# 『文章を理解するとは 認知の仕組みから読解教育への応用まで』
2010/01/24 15:15
文章を理解するとは 認知の仕組みから読解教育への応用まで 甲田直美 スリーエーネットワーク 2009年



人間の文章理解について、主に心理学の知見を中心にまとめた本。
人間の記憶や認知の仕組みについてわかっていることを基に、人間が文章を理解するとき、何が起こっているのか、理解の個人差にはどのような要因があるのかについて考察していく。

人間は、どのようにして文章を理解しているのだろうか。この問いに密接に関連している学問分野は、いくつかある。言語学は、文章に使われていることば、文法、情報の並べ方などに関する成果を蓄積してきた。情報工学や人工知能の分野は、コンピュータによる言語処理という視点から、言語の特性に迫ってきた。英語教育や国語教育は、おそらくこの問題を見逃すことのできない分野であろう。

では、心理学は、これまでこの問いにどう答えてきたのだろうか。心理学は、文章を読解する主体である読者の頭の中で何が起こっているのかに注目してきた。例えば、人間は時に間違った推論をする。記憶には限界がある。それでいて、自分の持っている知識をフルに活用して物事を理解するという、(機械と比べると)かなり高度な技もやってのける。文章を読むという行為は、人間の思考と深く関わっているため、人間の思考を研究してきた心理学の貢献は大きい。

本書は、文章理解に関する心理学的な話題を、大変幅広くまとめている。各話題では、興味深い実験データが紹介され、具体的に理解できる。また、基礎研究の分野に留まらず、読解教育への応用という視点を取り入れた研究も取り上げられている。例えば、どんな図が理解の助けになるのか、読解の材料は、読みやすければ読みやすいほど良いのかなど、素朴な疑問に対して行なわれた研究も扱われている。

文章の理解に対して、これまで心理学がどう解答を与えてきたのか。他の分野の人にとっても興味深い本であろう。

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# 『読ませるブログ 心をつかむ文章術』
2010/01/20 11:08
読ませるブログ 心をつかむ文章術 樋口裕一 ベスト新書 2009年



何万ものブログが溢れる現在、どのようなブログは読まれ、どのようなブログは読者を失うのだろうか。受験界の小論文指導に長年携わってきた筆者が、自分のブログを読んでもらうためのコツを伝授する。

このような本をブログによって紹介するのは、いささか変な気もするが・・・

現在のインターネット社会を批判する言説も多々ある中、筆者はブログの利点や長所を述べている。これは新鮮である。その背景には、ものを書くことが人間そもそもの欲求であるという点と、人に読まれることを意識したブログを書くことで、文章力も鍛えられるという考えがある。したがって、本書はブログをまだ開設したことがない人にも一読の価値ある内容になっている。

かつては特権的な階級のみに許された、万人に情報を発するという行為。現在は多くの人が自ら情報を発することが可能になった。これを、時代の
変化による恩恵と捉える筆者の姿勢には好感が持てる。

読み手をひきつけるための修辞法や書き出しの工夫など、いっぺんにすべてを応用できなくても、それらを意識して文章を書くのと、何も意識しないで書くのとでは、文章の質や視点の面白さには雲泥の差が生じるであろう。

さて、このような本をブログ上で取り扱うのは、少し気が引けるものである。当然この本を読んだのだから、記事の随所に工夫が見られるべきではないかという指摘が出るのがもっともなため。いやはや、言うは易く、行うは難し・・・

ちなみに、筆者のブログは、樋口裕一の筆不精作家のブログ

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# 『予習という病』
2010/01/13 21:45
予習という病 高木幹夫+日能研 講談社現代新書 2009年



自分が予想できる範囲のことにしか対応できず、未知の物、既存の枠組みでは捉えきれない物に遭遇すると、まったく対応できなくなってしまうことを、筆者は「予習病」と名付け、現代社会において憂慮すべき問題であるとする。では、その予防には、どんなことが有効なのか。現代の教育のあり方に問題意識を投げかけ、日能研における教育実践から、現代社会において求められる教育スタイルや社会の仕組みを提言する。

タイトルの割には、本書で扱っている内容は幅広い。学力を、身に付けた知識や計算力によってのみ測り、「学力低下」の懸念の下、総合的な学習の時間を批判するという社会情勢に対する反駁は頷ける。そして、生きていく上で問題解決力が必要な今、教育でもそれを重点課題としていくべきだという姿勢には納得がいく。
本書で提唱されている学習は、90年代から徐々に影響を増してきたconstructivismという思想に影響を受けているものだ。この考え方によると、知識は他者との交流の中で身に付くものである。そして、教科や科目といった枠組みに囚われず、幅広い知識を統合していく姿勢を重視する。ひとつの専門分野からでは解決できない問題が目白押しの現代社会において、大変注目されている教育である。

しかし、著者に日能研が含まれていることからも分かるように、日能研や私立中学の魅力をやや強調している印象を持たざるを得ない。私立学校贔屓の事情については、『亡国の中学受験』という本が批判している。実はこの2冊、出版社は異なるものの、形態は同じ新書であり、発売時期もほぼ同時。中学受験、受験産業、私立の教育実践、そこに通う生徒、公立学校の実態などに対する記述で好対照をなしている2冊を読み比べることで、多角的な視野を持てる事柄は多い。

最後に、「予習病」は、一見分かりやすく目を惹く単語だが、筆者はこの言葉をあまりに多くの問題に適用しすぎているように思える。その分、言葉の定義が曖昧になってしまっているのが問題。


■追記■
朝日新聞2010年1月31日の書評で本書が取り上げられました。

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